東京高等裁判所 平成元年(行コ)120号 判決 1991年1月21日
控訴人 西房美
右訴訟代理人弁護士 秋山幹男
同 三宅弘
同 近藤卓史
同 飯田正剛
被控訴人 栃木県知事 渡辺文雄
右訴訟代理人弁護士 谷田容一
右指定代理人 鈴木宗男 外三名
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人の控訴人に対する昭和六一年一〇月一五日付け昭和六〇年度知事交際費現金出納簿の非開示決定のうち、本判決添付別表記載の「相手方が法人その他の団体」欄の二一九件及び「相手方が個人」欄中の「識別されないもの」欄の三三件合計二五二件に関する情報が記録されている同出納簿中の部分についてこれを非開示とした部分を取り消す。
2 控訴人のその余の請求(右決定のうち、右別表記載の「相手方が個人」欄中の「識別されるもの」欄の一七〇件に関する情報が記録されている右出納簿中の部分についてこれを非開示とした部分を取り消すべき旨の請求)を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
第一当事者の求めた裁判
事実
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の控訴人に対する昭和六一年一〇月一五日付け昭和六〇年度知事交際費現金出納簿(別表記載の「封筒代、葉書代等」欄の雑費一四件を除く四二二件に関する部分)の非開示決定を取り消す(当審で請求を減縮し、右一四件に関する部分についての訴えを取り下げた。)。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却(訴えの一部取下げに同意した。)。
第二当事者の主張
一 請求原因
原判決二枚目表六行目から同三枚目裏四行目までを引用する(ただし、同二枚目裏一行目の「六〇」を「六一」に改める。)。
そこで、本件処分(別表記載の「封筒代、葉書代等」欄記載の雑費一四件を除く四二二件に関する部分)は違法であるから、その全部の取消しを求める。
仮に、本件処分の右全部の取消しが認められないとすれば、本件文書記載の情報の<1>年月日、<2>支出項目、<3>金額(I項目ごと、II個別)、<4>相手方(I項目ごと、II個別)の内、1、<1>ないし<4>I、2、<1>ないし<3>II、3、<1>ないし<3>I、4、<1><2>、の順序で部分取消しを求める。
二 請求原因に対する認容
認める。
三 抗弁
原判決四枚目表一行目から同一八枚目表一行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。
1 原判決六枚目表一行目の次に、次を加える。
「4 本件文書の内容の詳細は次のとおりである。
本件文書に記載された知事交際費の内訳及び摘要欄の支出項目の種別は、別表記載のとおりである(「相手方が個人」欄と「相手方が法人その他の団体」欄の区別は、当該交際の相手方が個人であるか法人その他の団体であるかによって区分したものであり、「相手方が個人」欄中の「識別されるもの」欄には、本件文書の摘要欄の記載から右交際の相手方である特定の個人が識別され、又は識別されるものを記載し、「識別されないもの」欄には、右が識別されないものを記載してある。)。また、事業を営む個人に対してその事業に関して交際費を支出した例はないので、これに関する情報は、「相手方が個人」欄には記載されていない。各支出項目の内容は、次のとおりである。
(一) 祝儀は、知事が各種の式典、祝賀会、大会、会合等に招待され、あるいは各種スポーツ大会等に参加する選手団体等から出陣のあいさつを受けた際、祝賀、協賛、激励等の趣旨で、金銭又は生花を贈ったものである。
(二) 慶弔のうち、「香料」、「供物」及び「生花」は、知事が、関係者の弔事に際し、喪主等に対する弔意の趣旨で金銭、供物又は生花を贈ったものであり、「御見舞」は、関係者の病気、事故等に対する見舞いの趣旨で金銭または品物を贈ったものである。
(三) 懇談経費の「接伴」は、知事が、関係者との間で御礼や信頼、友好等の関係を深める趣旨で懇談等を行った際、会食等の費用を支出したものである。
(四) 広告、賛助金等のうち、「広告」は、知事が新聞事業者等との信頼、友好等の関係を維持する等の趣旨で当該事業者等の発行する新聞等に登載する儀礼的な広告(知事の新年のあいさつ文等)の広告料を支出したもの、「賛助」は、公共的な活動を行っている民間団体から訪問、協力の要請等があった際、当該活動に賛同する趣旨で儀礼的に寄付を行ったものである。
(五) せん別等の「餞別」は、知事が、関係者の転勤、海外渡航等に際し、それまでの協力等に対し謝意を表し、更に今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で儀礼的に金銭を贈ったものである。
(六) 贈答品、みやげ等の「雑費」は、知事が関係者が来訪した際、信頼、友好等の関係を深める等の趣旨でみやげ等を贈ったもの、又は関係者のこれまでの協力等に対し謝意を表し、更に今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で記念品を贈ったものである。」
2 同一二枚目裏一〇行目の末尾に「(一九件)」を加える。
3 同一四枚目表四行目の「情報」の次に、「(具体的には、別表記載の「相手方が個人」欄中の「識別されるもの」欄の一七〇件に関するもの)」を加える。
4 同一四枚目裏一一行目の「情報」の次に、「(具体的には、別表記載の「相手方が法人その他の団体」欄かつ「広告」欄の二九件のうち、広告料が新聞事業者等の事業収入としての性格を有することが明らかであるものが二六件あり、これらに関するもの)」を加える。
5 同一七枚目表八行目から同裏一〇行目までを削除する。
四 抗弁に対する認否
否認する。
なお、原判決一八枚目表五行目から同二七枚目表九行目の「る。」までを引用する(ただし、原判決二二枚目表三行目の「八」を「六」に改める。)。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因について。
当事者間に争いがない。
二 抗弁について。
1 本件条例における公文書開示請求権について。
本件文書の開示請求権は、憲法二一条の規定に基づいて直接的に発生するものではなく、栃木県公文書の開示について定めた本件条例、殊に第1条及び第5条によってはじめて認められたものである。そして、本件条例は、条例の解釈基準を示すものとして、条例自体の中に特に一ケ条(第3条)を設けたが、その第3条の前段は、「実施機関は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に保障されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。」と規定し、公文書の「原則公開」の基本理念を示した(<証拠>の第3条の解釈参照)。
しかし、同時に、本件条例は、その第6条前文において、「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。」と規定して、(1) 号ないし(7) 号にわたって右請求権の適用除外の事由を定めており、また、前記第3条の後段は、「この場合において、実施機関は、個人の秘密その他の通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公開されることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定し、「個人のプライバシーの保護」という基本的人権の尊重を強調している(前掲<証拠>参照)。
したがって、控訴人の請求が認められるか否かは、法文解釈の一般原則と本件条例の解釈基準を示した右第3条の趣旨に従って、右第6条各号の法文を解釈し、運用することによって判断するべきものであり、かつそれで十分というべきである。
2 本件文書の内容等について。
<証拠>によれば、本件文書の内容等について、被控訴人主張の事実が認められる。その内容は、原判決四枚目表二行目から同六枚目表一行目まで及び前示事実欄第二の三1摘示の原判決に付加した部分のとおりである。
右のように、本件文書に記載されている交際事務に関する情報は合計四二二件であり、これを支出の項目別に分類すると、祝儀一六一件、慶弔一一三件、懇談経費一九件、広告、賛助金等六五件、せん別等二一件、贈答品、みやげ等四三件に六大別され、支出の相手方別に分類すると、相手方が個人で識別されるもの一七〇件とそれ以外のもの二五二件(相手方が法人その他の団体のもの二一九件及び相手方が個人で識別されないもの三三件)に二大別される。なお、本件文書には、右の外、特定の交際事務と関係のない封筒代、葉書代等の一四件も記載されているが、これは実質的には交際事務に関する情報とみることはできない全くの雑費であり、当審において<証拠>により実際上開示された。
3 本件条例第6条(5) 号該当性について。
(一) 本件条例第6条(5) 号は、「県の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、争訟、交渉、入札、試験その他の事務に関する情報であって、当該事務の性質上、公開することにより、当該事務若しくは同種の事務の実施の目的が失われ、又はこれらの事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれのあるもの」が記載されている公文書については、開示をしないことができる旨定めている。
法文解釈の一般原則及び前示の本件条例第3条前段の定める「原則公開」の基本理念に従って、本号の要件を分析すると、本号は前段要件と後段要件に分かれており、前者において、県の機関が行うすべての事務の中から特定の事務を挙げて第一段の絞りをかけ、更に、後者において、一定の要件を定めることによって第二段の絞りをかけ、前段要件に該当する特定の事務であっても、その全部ではなく後段要件に該当するその一部のみを開示しないことができるとしていることが明らかである。この点は、被控訴人自身の作成にかかる「情報公開事務の手引き(I)〔条例の解釈・運用基準〕」(<証拠>)の強調するところでもある。
そして、被控訴人が控訴人等の請求権者からの公文書開示請求に対して本号該当を理由として非開示決定をし、請求権者から本号非該当を理由としてその取消しを求める訴訟が提起された場合は、被控訴人において、問題となっている情報が本号の前段要件及び後段要件のいずれにも該当することを主張し、かつ、立証する責任を負うべきであることは、法文上、当然である。
(二) そこで、まず、本件のような「交際」に関する事務が右の前段要件に該当するかどうかについて検討する。
交際事務が本号の法文の挙げる「検査」以下の各種の事務に該当しないことはいうまでもない。そうすると、控訴人の主張するように、交際事務は、開示をしないことができる事務に該当しないのではないかと解する余地もないではない。しかし、立法者は、本号に挙示した事務のほかに、「その他の事務」も開示をしないことができる事務に入ると規定している。そこで、交際事務がこの「その他の事務」に当たるがどうかが問題となる。右の「その他の事務」とは、法文の構造上、同条に挙示された前示の諸事務と類似の事務をいうものと解すべきである。そこで、前示の「祝儀」以下の各行為を検討すると、これら各種の交際行為は、いずれも本号の「交渉」に関する事務に類似し、広義においてはこれと同種の事務であるとみることができる。したがって、右「祝儀」以下の交際事務は、本件条例第6条(5) 号前段にいう「その他の事務」に該当するというべきである。
そして、本件文書が、前記四二二件の交際事務に関する情報を記載していることは当事者間に争いがない。
(三) 被控訴人は、右四二二件全件の交際事務に関する情報は、その全部が本号の後段要件に該当すると主張し、その理由として、前記のように、右の情報を公開すると、相手方その他の関係者に、不快、困惑、不信等の念を抱かせることになり、あるいは知事の裁量権が侵害されて、そのため、当該交際事務の実施の目的が失われる等の結果を招くことになることを挙げている。
しかし、経験則上、右のような情報の公開は、必ずしも相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせることになるとは限らない。場合によっては、むしろ反対に、知事との交際が公表されたことを名誉に思う者もあるであろう。また、たとえ不快等の感情を生じさせた場合でも、その程度は、交際事務の実施の目的を失わせる等の結果を招くほどに強度のものではないことも多い筈である。例えば、本件文書中の最初の支出項目である祝儀項目中の「御祝」は、被控訴人の主張によれば、スポーツ大会や祝賀会に激励等の趣旨で金銭又は生花を贈ったものであるが、このことが公表されたとしても、通常の場合に、相手方等が不快感を抱き実施の目的が失われる等の結果に至るものとは考え難い、というべきである
確かに、ある場合には、右のような不快等の感情の程度が強く、そのため実施の目的が失われる等の結果を生ずることもあるであろう。しかし、そのような場合であることは、一般的抽象的にそういう可能性があるという主張のみから推認することはできず、交際事務の案件のそれぞれについて、個別的具体的に証拠によって証明されなければならない。そして、立証の結果、ある特定の情報について後段要件に該当することが証明されれば、その情報は非公開相当であって、その非開示決定は適法であり、この点が証明されなければ、公開相当であって、非開示決定は違法であるということになる訳である。
そして、被控訴人がこの後段要件の主張立証責任を負うことは前示のとおりであるにもかかわらず、本件において、被控訴人は、右の四二二件のいずれについても、抽象的に不快感等を生じさせるおそれがあるから、実施の目的が失われる等の結果を招くと主張するにとどまり、具体的に不快感等の程度やそれによる右の結果を招くことの蓋然性については、何らの立証をしない。確かに、証人佐藤誠は、抽象的に被控訴人の主張と同旨の供述をしているが、これをもって本号の後段要件の具体的な証明がなされたとみることは到底できない。また、一般的に、公開の法廷で非公開事由の立証をすることは相当に困難であり、相応の工夫を要するであろう。しかし、それだからといって、見るべき工夫をせず、具体的な立証をしなくてもよいということにはならないことはいうまでもない(以上の理は、被控訴人の主張する知事の裁量権の侵害その他の理由についても等しく当てはまるものであり、いかなる主張も証拠に代わることはできないのである。)。
付言するに、もし、被控訴人の主張するように、交際事務に関する情報の全部が当然に本号の後段要件に該当するとの考えが正当であるとすれば、非公開か公開かを選別するための特別な要件としての後段要件をわざわざ設ける必要はない訳であり、立法者としては、端的に、交際事務に関する情報は全部非公開とする旨の規定を設けた筈である。しかし、これは、原則公開の基本理念に反する。そこで、当然のことながら、そのような特段の規定は設けられていない。そして、前示のように、交際事務に関する情報は、本号の前段要件に該当する情報であると解する以上、その全部が当然に同号の後段要件に該当するとの考えは採用することができない。
なお、控訴人は、交際事務は、本号の前段要件に該当する情報ではないと主張し、もし該当するとしても、その全部が同号の後段要件に該当しないと主張する。この考えは、結論においては、被控訴人のそれと正反対であるが、立論の仕方はこれと同様であるから、右に説示したところに照らして、この考えも採用することができない。
したがって、本件処分のうち、前記四二二件に関する情報は本件条例第6条(5) 号に該当するとして本件文書中の右情報が記録されている部分を非開示とした部分は違法である。
4 本件条例第6条(2) 号該当性について。
(一) 本件条例第6条(2) 号は、「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人に不利益を与えることが明らかであると認められるもの」(同号ただし書イ、ロ、及びハに掲げる情報を除く。)が記録されている公文書については、開示をしないことができる旨定めている。
(二) 被控訴人は、別表記載の「相手方が法人その他の団体」欄かつ「広告」欄の二九件のうち二六件に関する情報は本件条例第6条(2) 号にも該当すると主張する。
<証拠>によれば、右情報は、本号の前段要件に該当することを認めることができる。次に、後段要件に該当するかどうかについては、本件条例第6条(5) 号について前記3で説示したのと同様の理由により、個別的具体的な立証がなされるべきである。
しかし、それがなされていない。したがって、本件処分のうち、右情報は本件条例第6条(2) 号に該当するとして本件文書中の右情報が記録されている部分を非開示とした部分は違法である。
5 本件条例第6条(4) 号該当性について。
(一) 本件条例第6条(4) 号は、「県の機関又は国等の機関が行う審議、検討、調査研究等(以下この号において「審議等」という。)に関する情報であって、公開することにより、当該審議等又は同種の審議等に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」が記録されている公文書については、開示をしないことができる旨定めている。
(二) 被控訴人は、別表記載の「懇談経費」欄の一九件に関する情報は本件条例6条(4) 号にも該当すると主張する。しかし、懇談が審議等に関連してなされたとしても、これに要した経費に関する情報は、審議等に関する情報ということはできない。したがって、本件処分のうち、右情報は本件条例第6条(4) 号に該当するとして本件文書中の右情報が記録されている部分を非開示とした部分は違法である。
6 本件条例第6条(1) 号該当性について。
(一) 本件条例第6条(1) 号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」(同号ただし書イ、ロ及びハに掲げる情報を除く。)が記録されている公文書については、開示をしないことができる旨定めている。
(二) 本件文書の中に、別表記載の個人に関する情報中、「相手方が個人」欄中の「識別されるもの」欄のもの、すなわち、祝儀(御祝)三九件、慶弔(香料五○件、供物二三件、生花三○件、御見舞六件)一○九件、懇談経費(接伴)二件、せん別等(餞別)一七件、贈答品、みやげ等(雑費)三件、合計一七○件に関する情報が記録されている部分が存在することは前示認定のとおりである。そして、これらの情報は、明らかに本号に該当するものというべきである。したがって、本件処分のうち、右情報は本件条例第6条(1) 号に該当するとして本件文書中の右情報が記録されている部分を非開示とした部分は適法である。
(三) なお、控訴人は、事業を営む個人との間で当該事業に関して交際がされた場合の外、相手方が公務員の場合も右第6条(1) 号の適用から除外するべきであり、また、相手方の氏名を抹消すれば、その他の部分は「特定の個人が識別され、又は識別され得る」情報に該当しないから、右部分については開示すべきであると主張する。
しかし、前示のとおり、本件文書中に、事業を営む個人との間で当該事業に関して交際がされた場合に該当する事例の記載はないことが認められる。また、相手方が公務員の場合でも、そのプライバシーは保護されるべきであり、本号の法文中に公務員を適用除外とする旨の文言の存在しない以上、法文解釈の一般原則に照らしても、また、本件条例第3条後段の「個人のプライバシーの保護」の趣旨からみても、本号の解釈上、公務員を別異に扱うことはできない。更に、仮に、相手方の氏名を抹消して、年月日、支出項目、金額等を開示するとすれば、その場合でも、これによって、氏名識別の可能性があることは容易に推察できるところであるから、そのような部分開示も本号に該当するものというべきである。
7 本件条例第7条該当性について。
(一) 本件条例第7条は、「実施機関は、前条に規定する公文書に同条各号のいずれかに該当する情報(当該情報が記録されていることによりその記録されている公文書について公文書の開示をしないこととされるものに限る。)以外の情報が記録されている部分が含まれている場合において、当該部分を容易に、かつ、公文書の開示の請求の趣旨を失わない程度に分離できるときは、同条の規定にかかわらず、当該部分については公文書の開示をしなければならない。」と定めている。
(二) 本件において、本件文書中右の「当該部分」に相当する前記二五二件に関する情報の部分は、前記の雑費一四件に関する情報の部分を記載した書面である<証拠>に照らすと、容易に、かつ、公文書の開示の趣旨を失わない程度に分離できるものと認めることができる。
三 結論
以上のとおり、被控訴人の控訴人に対する昭和六一年一〇月一五日付け昭和六〇年度知事交際費現金出納簿の非開示決定のうち、本判決添付別表記載の「相手方が法人その他の団体」欄の二一九件及び「相手方が個人」欄中の「識別されないもの」欄の三三件合計二五二件に関する情報が記録されている同出納簿中の部分についてこれを非開示とした部分は、被控訴人が主張する本件条例の定める公文書を非開示とすべき事由が存在しないのであるから違法であり、したがって、取り消されるべきである。次に、右決定のうち、右別表記載の「相手方が個人」欄中の「識別されるもの」欄の一七〇件に関する情報が記録されている右出納簿中の部分についてこれを非開示とした部分は、本件条例第6条(1) 号の定める非開示とすべき事由が存在するのであるから適法であり、したがって、この点の控訴人の請求は棄却されるべきである。
よって、行訴法七条、民訴法三八六条、三八四条により原判決を主文一のとおり変更し、訴訟費用について民訴法九六条、九二条、八九条を適用して主文二のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 伊藤博 裁判官 池田亮一)
別紙<省略>